改正民法勉強室

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民法改正ブログ 第5回 【債権者代位権】

 今回は、「債権者代位権」に関する改正内容を説明します。

 

1 債権者代位権とは 

 債権者代位権とは、債務者が一般財産を保全する行為をしないときに、債権者が債務者に代わって当該行為をする権利です。
現行法423条は、債権者代位権について以下のように規定しています。

債権者代位権

423条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。

2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。 

 「自己の債権を保全するため」とは、この権利を行使するためには、保全の必要性、すなわち、債権者がその債権内容の満足を得るのに必要であることを要するという意味です。その債権のことを「被保全債権」といいます。
 被保全債権が金銭債権である場合には、債権者代位権が認められるためには「債務者が債権者に弁済する十分な資力がないこと」が必要とされています(無資力要件)。
 他方、被保全債権が金銭債権以外の債権である場合(例えば、登記請求権)には、判例上、債権保全の必要があるというためには、特定債権の保全のために必要であることで足り、債務者の無資力要件は必要ない場合があるという考えが採られてきました。これにより、債権者代位権は基本的に責任財産保全が目的であり、金銭債権を保全するための制度ですが、金銭債権以外の債権を保全するためにも用いることが可能となります。このような債権者代位権の利用を債権者代位権の転用といいます。
 なお、債権者代位権の要件として、代位が債権を保全するための唯一の方法であることは要求されていません。しかし、債権者代位権の転用の場面においては、債権者代位権の行使が認められるのは合理的な理由がある場合に限られるべきであり、直接請求権が明確に存在する場合には、代位権の転用は避けるほうが望ましいという考え方も存在します(補充性の要件、奥田昌道編「新版注釈民法(10)Ⅱ債権(1)債権の目的・効力(2)」725頁〔下下定〕(有斐閣、初版、2011))。

 

2 債権者代位権の要件(423条) 

改正後の民法423条の内容は以下のとおりです。

民法423条 (債権者代位権の要件)

1 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。

2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。

3 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。

 

(1) 改正の内容及び趣旨 

 本条1項本文は、現行法423条1項本文の規律の内容を維持した上で、保全の必要性があることを要する旨を明確にするため、同項本文の「保全するため」の次に「必要があるときは」という文言を加えました。
 また、本条1項ただし書では、代位行使が許されない権利として、債務者の一身専属権のほか、差し押さえることを禁止される権利が加えられました。これは、「差押えを禁じられた権利」は一般債権者の共同担保(責任財産)を構成しないことから、債権者代位権の対象とするのに適さないと考えられたことによります(民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明(以下「中間試案補足説明」といいます。)151頁)。
 本条2項は、利用例の乏しい、現行法における裁判上の代位を廃止することとし、保存行為を除き、期限未到来の債権を被保全債権として代位権を行使することができないものとしました。これは、実務上、裁判上の代位による債権者代位権の行使の実例が存在せず、保全処分の制度(仮差押え)が充実したわが国では、裁判上の代位によって被保全債権を保全しなければならない必要性にも乏しいと考えられたことによります(中間試案補足説明150頁)。これに伴い、裁判上の代位に関する旧非訟事件手続法85条から91条までの規定も削除されました(民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成29年法律第45号)第56条)。
 本条3項は、被保全債権が「強制執行により実現することのできないもの」であるときに、当該債権を保全するために債権者代位権を行使することができないとするものですが、これは、強制執行により実現することができない債権を保全するために強制執行準備を目的とする債権者代位権を行使するというのは不適切であると考えられたことによります(中間試案補足説明151頁)。

 

(2) 実務への影響 

 本条は、基本的に改正前民法に認められていた取扱いの内容を明文化し、また利用例の極めて乏しい制度を廃止するものにすぎないので、実務への影響は大きくないと考えられます。

 

3 代位行使の範囲(423条の2)

改正後の民法423条の2の規定の内容は、以下のとおりです。

民法423条の2 (代位行使の範囲)

 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。

 

(1) 改正の内容及び趣旨

 本条は、被代位債権の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使できる旨を規定しています。現行法において、判例最判昭和44年6月24日民集23巻7号1079号)は、「債権者が債務者に対する金銭債権に基づいて債務者の第三債務者に対する金銭債権を代位行使する場合においては、債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の債権を行使し得るものと解すべきである」と解しており、本条は、この判例法理を条文上明らかにしたものです。この判例法理においては、被代位権利が金銭債権である事案を念頭に置いていましたが、これをより一般化して、「被代位権利の目的が可分であるとき」という要件が採用されました。 

(2) 実務への影響

 本条は、従来の判例法理を明文化するものと考えられるため、実務に影響を及ぼすことはないと考えられます。

 

4 債権者への支払又は引渡し(423条の3)

改正後の民法423条の3の規定の内容は、以下のとおりです。 

民法423条の3 (債権者への支払又は引渡し)

 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払又は動産の
引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において、相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する。

 

(1) 改正の内容及び趣旨

 現行法において、判例(大判昭和10年3月12日民集14巻482頁)は、債権者が被代位権利の目的物を自己の直接引き渡すよう求める旨を判示しており、本条は、この判例法理を条文上明らかにしたものです。
 また、当該判例法理は、代位行使の相手方が代位債権者に直接引渡しをしたときには、それによって被代位権利が消滅することを当然の前提としていることから、本条後段において、その点も併せて明文化しました。
 第三債務者からの直接引渡しを受領した代位債権者は、当該受領金等の債務者への返還債務を負いますが、原則として、この返還債務と被保全債権を相殺することにより、改正民法下におけるのと同様、被保全債権を回収することができるものと解されています(事実上の優先弁済)。

 

(2) 実務への影響

 本条は、従来の判例法理を明文化するものと考えられるため、実務に影響を及ぼすことはないと考えられます。ただし、事実上の優先弁済については、債権者が被代位権利を行使し、相手方に対して直接の金銭の支払を求めたとしても、相手方は債務者に対して履行することができるし、債務者は相手方からの履行を受領することができる(民法423条の5参照)ので、この場合には、事実上の優先弁済が認められる場面が縮小しているという指摘があり、また、「仮に相殺禁止に関する明文の規定を置かないとしても、相殺権濫用の法理などによって相殺が制限されることも考えられ」る(法務省民法(債権関係)部会資料(以下「部会資料」)73A 31ページ)と指摘されていることに留意が必要です。

 

5 相手方の抗弁(423条の4)

改正後の民法423条の4の規定の内容は、以下のとおりです。

民法423条の4 (相手方の抗弁)

 債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる。

 

(1) 改正の内容及び趣旨

 現行法において、判例(大判昭和11年3月23日民集15巻551頁)は、代位行使の相手方は債務者に対する抗弁をもって代位債権者に対抗することができる旨を判示しており、本条は、この判例法理を条文上明らかにしたものです。
 また、本条は、第三債務者が代位債権者に対して主張できる抗弁をもって対抗することはできない旨を含意するものと考えられます(潮見佳男「民法(債権関係)改正法の概要」(きんざい、2017)80頁)

 

(2) 実務への影響

 本条の改正による実務への影響はないと考えられます。

 

6 債務者の取立てとその他の処分の権限等(423条の5)

改正後の民法423条の5の規定の内容は以下のとおりです。

民法423条の5 (債務者の取立てとその他の処分の権限等)

 債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。

 

(1)改正の内容及び趣旨

 現行法下における判例法理では、債権者が代位行使に着手し、債務者がその通知を受けるか、またはその権利行使を了知したときは、債務者は被代位権利の取立てその他の処分の権限を失うものとされていました(大半昭和14年5月16日民集18巻557頁)。
 しかし、債権者代位権は、債務者が自ら権利行使をしない場合に限ってその代位行使が認められるものであり、もともと債務者の権利行使の巧拙などには干渉できないものであることからすれば、債務者の処分権限を奪うのは過剰な規制であると考えられます。また、債務者の処分権限の制限といった重大な効果を発生させるためには、手続の整備された差押えや仮差押えをなすべきとも考えられます。そのため、債権者代位権の行使の着手によって債務者の処分権限を制限することは根拠に欠けると考えられます。
 そのため、本条は、債務者の取立てその他の処分の権限が制限を受けないこと及び第三債務者に弁済禁止効が生じないことを明文化したものです。

 

(2) 実務への影響

 現行法下において、債権者代位権の行使の着手があった場合には、、第三債務者の債務者に対する弁済が禁止される旨を判示した裁判例が存在しました(東京高判昭和60年1月31日判時1142号53頁)。本条の改正は、このような裁判例の考え方を変更するものであるため、実務への影響も考えられます。
 もっとも、現行法下において、債務者の処分制限効に依拠して債権者代位権を行使する実例はほとんどなかったと考えられ、第三債務者の弁済禁止効については定説といえるものはありませんでした。そのため、債権者代位権は、第三債務者が債務者に弁済してしまうリスクを包含した制度であり、そのようなリスクを回避するためには、仮差押えの処分制限効(民事保全法50条1項参照)等の制度が活用されてきたものと考えられます。また、債権者は、第三債務者による弁済のみならず債務者による取立てその他の処分を禁止するために、債務者に対する債権(被代位債権)につき債務名義を得た上で、第三債務者に対する債務者の債権(被代位債権)に対して差押えを行うことが可能です(民事執行法145条1項参照)。
 本条では、処分禁止効が明確に否定されていますが、これまでにこのような実務対応がなされていたとすれば、第三債務者が債務者に弁済してしまうリスクに対しては同様の対応が採られるため、実務への影響は小さいと考えられます。

 

7 被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知(423条の6)

改正後の民法423条の6の規定の内容は、以下のとおりです。

民法423条の6 (被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知)

 債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。

 

(1)改正の内容及び趣旨

 現行法下において、債権者代位訴訟における代位債権者の地位は、株主代表訴訟における株主と同様に法定訴訟担当と解されており、その判決の効力は代位債権者敗訴の場合も含めて被担当者である債務者にも及ぶと解されています(民事訴訟法115条1項2号)。
 株主代表訴訟については、会社法849条4項が株主代表訴訟を提起した株主に会社への訴訟告知を義務付けていますが、現行法においては、債権者代位訴訟を提起した債権者に債務者への訴訟告知を義務付ける規定がなく、債務者の手続保障の観点から問題があるとの指摘がなされていました。
 本条は、債権者に訴訟告知を義務付けることにより、判決効が及ぼされる債務者の手続保障を確保する趣旨の規定です。
 なお、改正法においても、債権者代位訴訟を法定訴訟担当の一種ととらえることが前提とされていますが、債務者が被代位権利の管理処分権を失わない(改正法423条の5)ことから、訴訟告知を受けた債務者が債権者代位訴訟に加入する際の加入形態に改正前との違いを生じるものと考えられています。
 すなわち、改正法下おいては、補助参加(民事訴訟法42条)、独立当事者参加(同法47条1項。ただし、被保全債権の存在を争う場合に限られます。)のほか、共同訴訟参加(同法52条1項)が認められます。
 また、代位債権者が訴訟告知をしない場合の効果が問題となりますが、債務者の手続保障や第三債務者の応訴負担の観点から訴訟告知がない限り、訴えを却下することが妥当であるとの指摘があります(日本弁護士連合会編「実務解説改正債権法」(2017、初版、弘文堂)165頁)。
 

(2)実務への影響

 本条により、債権者代位訴訟における代位債権者に、訴訟告知を実施する負担が生じることになります。また、訴訟告知を受けた債務者が債権者代位訴訟に加入する際に、補助参加、独立当事者参加、共同訴訟参加のいずれの形態を選択すべきかについて注意が必要です。

 

8 登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権(423条の7)

改正後の民法423条の7の規定の内容は以下のとおりです。

民法423条の7 (登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権

 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前3条の規定を準用する。

 

(1) 改正の内容及び趣旨

  本来、債権者代位権の制度は、債務者の責任財産保全して強制執行の準備をすることを目的としていますが、判例上、不動産登記請求権を被保全債権として、不動産登記請求権の代位行使ができるものとされ、一定の場合に、債務者の責任財産保全を目的としない債権者代位権(債務者の無資力要件を代位の要件としない債権者代位権の転用)が認められていました。
 本条は、判例により認められていた、不動産登記請求権を被保全債権とする不動産登記請求権の代位行使を明文化し、その要件と効果を明らかにしたものです。
 なお、本条の検討に当たっては、この類型のほか、転用型債権者代位権の一般的要件について規定を設けることも検討されましたが、その要件につき、適用範囲が不明確とならないように条文の文言を規定することが困難であることに加え、規定すべき要件(とりわけ、他に適切な手段がないことを要するという補充性の要件)について意見の一致を見ることができなかったため、改正が見送られました(部会資料73A 36頁、中間試案補足説明159頁参照)。
 もっとも、本条は、現行法下において判例上認められてきた他の転用例を否定する趣旨ではなく、例えば、債権者譲渡通知請求権を被保全債権とする債権譲渡通知請求権の代位行使も、改正法下において認められますし、個別類型での転用の可否については、なお、解釈に委ねられていると考えられます。

 

(2) 本条の内容

 「登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者」とは、登記・登録の請求権を債務者に対して有しているものを意味します。例えば、AがBに対して甲土地を譲渡し、BがこれをCに転売した場合、「登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産」とは甲土地、この「財産を譲り受けた者」とはC、「その譲渡人」とはB、「第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利」とはBがAに対して有している登記請求権を指します。なお、「登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産」には、「登記又は登録をしなければ効力を生じない財産」(例えば、特許法66条1項、企業担保法4条1項など)も含まれると考えられています(前掲潮見「民法(債権関係)改正法の概要」83頁)。

 

(3) 実務への影響

 本条は、債権者代位権の代表的な転用事例を明文化するものであり、従前からの実務に変更をもたらすものではなく、また、これまで認められてきた他の転用例を否定するものではないため、実務への影響はほぼないものと考えられます。

 

(弁護士 川村 一博)