改正民法勉強室

祝田法律事務所の所属弁護士が、所内で行っている改正民法の勉強会の資料をアップしていきます。

民法改正ブログ 第6回 【詐害行為取消権】

 今回は、「詐害行為取消権」に関する改正内容を説明します。

 

1 詐害行為取消権とは

 
詐害行為取消権とは、債務者が債権の責任財産の不足することを知りつつ財産減少行為をした場合に、その行為の効力を否認して債務者の責任財産保全を図ることを目的とする制度です。詐害行為取消権と共通の機能を有する制度として、破産法・民事再生法会社更生法上の否認権の制度があります。破産法上の否認権を例にして説明すると、両制度は、詐害行為取消権が個別の強制執行の準備のために個々の債権者に認められた権利であるのに対して、否認権は集団的な債務処理手続において、個々の債権者ではなく破産管財人に認められた権利であることなどの点で異なっています。
 なお、詐害行為取消権に関する条文において、「受益者」とは詐害行為によって利益を受けた者(債務者から財産の移転を受けた者)のことを意味しており、「転得者」とは受益者から更に財産の移転を受けた者のことを意味しています。

 

2 相当の対価を得てした財産の処分行為(424条の2
 

第424条の2(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)

 債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。

 一 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。

 二 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。

 三 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

 

(1) 改正の内容及び趣旨

 旧法下において、判例は、不動産等の財産を相当な価格で処分する行為については、原則として、不動産等の財産を費消・隠匿しやすい金銭に換える行為自体に詐害性を認めていました(大判明治44年10月3日、最判昭和41年5月27日)。
 他方で、破産法上の否認権においては、取引に萎縮効果等が生じることを避けるため、破産法161条1項において、本条1号から3号と同様の要件が明確にされていましたので、旧法下においては、詐害行為取消権の対象になる行為が否認権の対象にはならないという不整合が生じていました。
 そこで、民法においても、本条1号から3号で破産法161条1項と同様の要件が定められました。

 

(2) 実務への影響

 旧法下においては、本条2号又は3号の要件を満たさない場合であっても、詐害行為取消権の対象となる可能性がありましたが、改正法下においては、本条1号から3号のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消権の対象となることが明文化されました。

 

3 特定の債権者に対する担保の供与等(424条の3

第424条の3(特定の債権者に対する担保の供与等の特則)

1 債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる。

 一 その行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項第1号において同じ。)の時に行われたものであること。

 二 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。

2 前項に規定する行為が、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において、次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、債権者は、同項の規定にかかわらず、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。

 一 その行為が、債務者が支払不能になる前30日以内に行われたものであること。

 二 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。

 

(1) 改正の内容及び趣旨
 
 旧法下において、判例は、無資力の債務者が特定の債権者と通謀し、他の債権者を害する意思をもって弁済する行為は詐害行為に該当するとしていました(最判昭和33年9月26日)。
 他方で、破産法上の否認権においては、取引に萎縮効果等が生じることを避けるため、特定の債権者に対する担保の供与及び対価的に均衡のとれた特定の債権者に対する債務の消滅に関する行為(偏波行為)については、原則として、支払不能前の行為の効力は否定されないこととされています。したがって、支払不能前の弁済は否認権の対象とはならないものの、債務者の無資力と通謀詐害意図が認められる限り、詐害行為取消権の対象になり得るという不整合が生じていました。
 そこで、本条1項1号の支払不能の要件として破産法162条1項1号と同様の要件が採用され、また、本条2項1号の要件に破産法162条1項2号の趣旨が反映されました。
 また、本条1項2号及び2項2号の「債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図」については、従来の判例法理(最判昭和52年7年12日)を採用することにより、否認権よりも要件を加重しています。

 

(2) 実務への影響

 支払不能前になされた本旨弁済や義務的な担保供与行為は、詐害行為取消権の対象とはならないことが明らかになりました。

4 過大な代物弁済等の特則(424条の4

第424条の4(過大な代物弁済等の特則)

 債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、第424条に規定する要件に該当するときは、債権者は、前条第1項の規定にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、詐害行為取消請求をすることができる。

 

(1) 改正の内容及び趣旨

 債務に比して過大な代物弁済を念頭に、対価的な均衡を欠く債務の消滅に関する行為について、消滅した債務の額に相当する部分については、対価的に均衡のとれた債務の消滅に関する行為であるため、改正法424条の3(特定の債権者に対する担保の供与等の特則)の適用の有無の問題となり、消滅した債務の額を超える部分については、詐害行為取消権の原則的な規定である改正法424条が適用されることとなりました。

 

(2) 実務への影響

 過大な代物弁済について、旧法下での取扱いは明確ではありませんでしたが、改正法下においては、支払不能前の行為については、過大部分についてのみが詐害行為取消権の対象となり、対価的に均衡のとれた部分についての債務消滅の効果が覆らないことが明確になりました。債務者が給付した財産が不可分なもの(一棟の建物など)であるときは、債権者はその一部の返還(現物返還)を求めることができないため、価額の償還を求めることになります(改正法424条の6第1項後段)。

 

5 転得者に対する詐害行為請求(424条の5

第424条の5(転得者に対する詐害行為取消請求)

債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる。

 一 その転得者が受益者から転得した者である場合

その転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。

 二 その転得者が他の転得者から転得した者である場合

その転得者及びその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。

 

(1) 改正の内容及び趣旨

 転得者に対する詐害行為取消請求について、旧法下では、転得者の転得時における詐害事実の悪意のみを要件としており、判例では、受益者が善意であり、受益者に詐害行為取消請求をすることができない場合であっても、悪意の転得者には、詐害行為取消請求をすることができるとされていました(最判昭和49年12月12日)。
 しかし、転得者が善意の受益者から受け取った財産を失うことになると、善意の受益者が転得者から担保責任を追及されるなど、善意の受益者の取引の安全が害される可能性があります。
 そこで、改正法においては、受益者が善意でなく、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合にのみ、転得者に対しても詐害行為取消請求をすることができることとされました(本条柱書き)。
 また、転得者の悪意については、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていた場合にのみ、転得者に対して詐害行為取消請求をすることができることとされました(本条1号)。さらに、他の転得者から転得した転得者については、当該転得者及びその前に転得した全ての転得者がそれぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていた場合にのみ、当該転得者に対しても詐害行為取消請求をすることができるとされました(本条2号)。

 

(2) 実務への影響

 改正法下においては、受益者が善意であり、受益者に詐害行為取消請求をすることができない場合、転得者に対する詐害行為取消請求をすることができませんので、旧法下よりも、転得者に対する詐害行為取消権の行使の要件が厳格化され、取消しが認められにくくなります。

 

6 被告及び訴訟告知(424条の7

第424条の7(被告及び訴訟告知)

1 詐害行為取消請求に係る訴えについては、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者を被告とする。

 一 受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え受益者

 二 転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴えその詐害行為取消請求の相手方である転得者

2 債権者は、詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。

 

(1) 改正の内容及び趣旨

 旧法下において、判例は、詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力は、財産の返還を請求する相手方である受益者又は転得者には及ぶものの債務者には及ばないこと(相対的効力)を前提として、詐害行為取消請求に関する訴訟においては、受益者等を被告とすべきであり、債務者を被告とする必要はないとしていました(大判明治44年3月24日)。
 しかし、確定判決の効力が債務者に及ばない結果、受益者等は、財産を返還することとなっても、財産を取得するために債務者に支払っていた金銭等の返還を債務者に請求することができないこととなるなど、関係者間の統一的な利害調整を困難にしているとの批判がありました。
 そこで、改正法においては、被告とするのは受益者等とした上で(本条1項)、詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力については、被告となった受益者等だけでなく、債務者にも及ぶとするとともに(425条)、債務者にも審理に参加する機会を保障するため、債権者は、訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならないとしました(本条2項)。

 

(2) 実務への影響

 債権者に債務者に対する訴訟告知の義務が課されることにより、債務者が審理に参加する機会が保障されましたが、債権者にとっては一定の負担が生じることになります。

 

7 債権者への支払又は引渡し(424条の9

第424条の9(債権者への支払又は引渡し)

 1 債権者は、第424条の6第1項前段又は第2項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払又は引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができる。この場合において、受益者又は転得者は、債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しない。

 2 債権者が第424条の6第1項後段又は第2項後段の規定により受益者又は転得者に対して価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。

 

(1) 改正の内容及び趣旨

 旧法下において、判例は、詐害行為取消しに基づき受益者等に対し金銭の返還を求める場合、債権者が自己への直接の引渡しを認めており、これが明文化されました。
 また、旧法下において、債権者は、受益者等から金銭の支払いを受けた場合、その金銭の返還債務と債務者に対する自己の債権とを相殺することは禁止されないと解されていました。そのため、債権者は、民事執行の手続によることなく自己の債権を事実上優先的に回収することができました。
 改正法の立法過程においては、詐害行為取消の制度は、後の強制執行に備えて責任財産保全するものであるため、債権者が民事執行の手続によることなく優先的に債権回収を図ることは制度趣旨を超えているとの批判があり、相殺を禁止する案も検討されましたが、相殺による債権回収を否定すると、債権者が詐害行為取消権を行使する動機を減少させ、詐害行為取消の制度が有する詐害行為の抑止という機能が減退してしまうなどの理由から、最終的には、改正法において相殺を禁止する規定は設けられませんでした。

 

(2) 実務への影響

 本条1項後段の規定が前提としている債務者の引渡請求権の存在は、実務に大きな影響を与える可能性があると考えられています。
 すなわち、取消判決確定後、直ちに受益者等が債務者に対して支払等を行うと債権者の請求権も消滅することとなり、また、債務者において受益者等からの受領金等が隠匿されてしまうという事態も考えられます。そこで、債権者としては、取消訴訟係属中に、債務者の請求権を仮差押えするなどの対応が必要となります。

 

8 認容判決の効力が及ぶ者の範囲(425条)

第425条(認容判決の効力が及ぶ者の範囲)

 詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。

 

(1) 改正の内容及び趣旨

 上記の「6 被告及び訴訟告知(424条の7)」で述べたとおり、詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力については、被告となった受益者等だけでなく、債務者にも及ぶこととされました。

 

(2) 実務への影響

 詐害行為取消請求を認容する確定判決により、受益者等が金銭又は動産の引渡し等をすべき場合については、本条により、債務者の受益者等に対する金銭等の請求権が観念されることになります。
 その実務への影響については、上記「7 債権者への支払又は引渡し(424条の9)」の(2)で述べたとおりです。

 

9 債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利(425条の2

第425条の2(債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利)

 債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができる。

 

(1) 改正の内容及び趣旨

 上記「6 被告及び訴訟告知(424条の7)」の(1)で述べたとおり、旧法下において、判例は、詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力は、財産の返還を請求する相手方である受益者又は転得者には及ぶものの債務者には及ばないとしていましたので(相対的効力)受益者等は、財産を返還することとなっても、財産を取得するために債務者に支払っていた金銭等の返還を債務者に請求することができないことになりかねませんでした。
 しかし、このような結論は、受益者と債務者の公平を欠くというほかなく、類似する破産法上の否認制度においても、財産処分行為が否認された場合、相手方は、その財産処分行為における反対給付の返還を求めることができるとされています(破産法168条)。
 そこで、改正法においては、詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力が債務者にも及ぶとした上で(425条)、財産処分行為が取り消された場合、受益者は、債務者に対し、その反対給付の返還を請求することができ(本条前段)、反対給付が第三者に処分された場合などその反対給付の返還が困難であるときは、その価額の償還を請求することができることとされました(本条後段)。

 

(2) 実務への影響
 受益者の反対給付がある詐害行為が取り消された場合には、受益者は、債務者に対し、反対給付に関する権利を行使できるようになるため、それを前提として保全手続の実施等の実務対応が求められることになります。

 

10 受益者の債権の回復(425条の3

第425条の3(受益者の債権の回復)

 債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復する。

 

(1) 改正の内容及び趣旨
 
 上記「6 被告及び訴訟告知(424条の7)」の(1)で述べたとおり、旧法下において、判例は、詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力は、財産の返還を請求する相手方である受益者又は転得者には及ぶものの債務者には及ばないとしていました(相対的効力)。
 例えば、債務者(X)が1000万円の債権を有する者(Y)に対し、2000万円の土地を代物弁済したものの、これが詐害行為取消請求によって取り消され、Yが2000万円の土地を返還することになったとしても、債務者にその判決の効力が及ばないとすると、YがAに対して有していた1000万円の債権は消滅したままのようにも思われます。
 そのような結論は合理的ではありませんので、改正法では、債務消滅行為が取り消された場合(424条の4の規定により取り消された場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、原状に復するとされました。債権が原状に復するのは、あくまで給付の返還後であり、債務消滅行為が取り消されただけでは足りません。
 なお、424条の4の規定により取り消された場合が除かれているのは、債務消滅行為が過大な代物弁済等に該当する場合において、当該代物弁済によって消滅した債務の額に相当する部分を超える部分のみが取り消されたときは、受益者がその取り消された部分の価額を償還したとしても、当該代物弁済によって消滅した債務の額に相当する部分の価額を償還したことにはならないから、受益者の債務者に対する債権は回復しないことを示すためです。

 

(2) 実務への影響

 偏頗行為の取消しを請求された受益者は、取消判決が確定し、受益者が弁済金等を返還したときには、受益者の債務者に対する債権が復活することとなるので、当該復活債権(条件付債権)を被保全債権として、取消判決確定後に生じる債務者の受益者自身に対する弁済金等の返還請求権(条件付債権)を仮差押えしたうえで、自ら第三債務者として執行供託する対応が考えられます。
 他方で、上記「7 債権者への支払又は引渡し(424条の9)」の(2)で述べたとおり、債権者としては、取消訴訟係属中に、債務者の請求権を仮差押えするなどの対応が考えられます。
 その結果、判決確定後は、債権者と受益者は、債務者の請求権に対する債権執行手続に基づき、各自の債権額に按分して、偏頗弁済金を分け合うことになると考えられます。

 

11 詐害行為取消請求を受けた転得者の権利(425条の4

第425条の4(詐害行為取消請求を受けた転得者の権利)

 債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは、その転得者は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。

 一 第425条の2に規定する行為が取り消された場合

その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権

 二 前条に規定する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。)

その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権

 
 上記「10 受益者の債権の回復(425条の3)」と同様の趣旨により、転得者についても、転得者に対する詐害行為取消請求によって債務消滅行為が取り消された場合に転得者の債権の回復について定めたものです。

 

12 詐害行為取消権の期間の制限(426条)

第426条(詐害行為取消権の期間の制限)

 詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起することができない。行為の時から10年を経過したときも、同様とする。

 

(1) 改正の内容及び趣旨

ア 長期の期間制限の短縮

 旧法は、詐害行為取消権は、詐害行為の時から20年を経過すると、行使することができないとしていました。しかし、詐害行為取消権は、例外的に債務者の財産管理権に債権者が介入する制度であるため、あまりに長期間にわたって詐害行為取消権を行使できる状態が継続し、法律関係が安定しないのは妥当とはいえません。
 そこで、改正法では、詐害行為取消請求についての訴えを提起することができる期間を詐害行為の時から10年に短縮しました。

イ 出訴期間

 旧法は、文言上、詐害行為取消権についての制限期間は、消滅時効であるとしていましたが(判例については、最判昭和47年4月13日、最判平成22年10月19日参照)、消滅時効期間であると、時効の完成猶予や更新が可能となり、法律関係が安定しないという問題が生じます。
 そこで、改正法では、詐害行為取消権の期間の制限は、出訴期間に改められました。

(2) 実務への影響

 期間の制限が消滅時効期間から出訴期間に改められたことにより、時効の完成猶予や更新等の規定の適用がなくなります。

(弁護士 清野 訟一)